枇杷がうちにくることになった顛末
枇杷は、捨て猫だった。
人懐こい猫で、地域猫に餌をやっている方のところに、ある朝急に現れて、
傍をどうしてもどうしても離れなくて、しょうがなくて連れて帰った、とのこと。
偶然にも、その地域のボランティアさんは、前日枇杷に会っていた。
「引っ越していった友達から貰ったんだけど、ママがだめって言うから、処分してくれるところを探してるんです」
紆余曲折あって、母親が来て、「やっぱり飼う」と連れて行った。
その翌朝エサ場に現れたのだから、結果はお察しだったのだろうと思う。
わたしは、ずっと猫を飼いたかった。
飼いたくて、ペット可のマンションに引っ越したばかりだった。
一緒に暮らしてくれる、家族になってくれる猫を探していた。
でも、犬も猫も含め、生き物を飼ったことが一度もなくて、
自信なんかひとつもなかった。
ひとり暮らしで、将来どうなるかもわからなくて、
自分がいきなり働けなくなったり倒れたりしたら、ねこはどうしたらいいんだろうか。
責任をもてるだろうか。
考えれば考えるほど、「やっぱり無理なんじゃないのか」とも思えてきた。
だけど、とりあえず会いに行ってしまった。
諦めたくはなかった。半分くらいは「私に猫を飼う資格はないのではないか」と思いながら、
もう半分くらいの部分ではみっともなく欲望丸出して「飼いたい、一緒に暮らしたい」と思ってた。
そして、会いにいったら。
保護主さんのおうちは海に近くて開放感のある素敵な家で、
更に中に入ればそこら中にのんびりとした猫がたくさん。
みんな、自由に好きなように暮らしていて、のんびりした空気が漂っていた。
お話しているうちに、今までぐるぐると考えていた怯えや怖さが、解けていく気がした。
そうして、満を持して出会った枇杷ちゃんは、10分くらいは遠巻きにこっちを眺めていたものの、
同じ場所に座り続けていればそのうちすりすりと手のひらの下に滑り込んで、
「強制撫でろ状態」。
膝にも上ってきて、「人懐っこいですよ」の言葉が確実に嘘ではないということが判明した。
半分以上、決めかかってた。
帰り際、椅子に登ってほぼ目線が同じ位置になった枇杷ちゃんに、問うてみた。
「うちに、来てくれるかい」
それまでむずむず動いていた枇杷ちゃんは一瞬動きを止め、
枇杷ちゃんはこちらを見て、ゆっくりと瞬きをした。
…気がした。
そうしたら、あとはとんとん拍子ですよ。
保護主さんの家にもまだ一週間しかいなかったから、
「この家になれちゃう前に、はやく里親さんの家に移動させてあげたい」と行ってくれて。
お見合いした翌々日にはもううちに来ていた。
暑い中、夏休みで混んでいる道路を走ってきてくれた保護主さん方には本当に感謝しても足りない。
いろんな縁がなかったら、枇杷はここにはいない。
あんな人懐こくて穏やかで、オモチャで遊んだって「ちょっと噛んだらぽいっ」の枇杷は、
確実に獲物をし止められない。けんかになったら恐らくボロ負け。
うちに来てくれて、本当によかった。
飼い主は多少うっとうしいかもしれないけど、快適な住環境と、ごはんと、お水だけはあげられる。
あとふかふかの寝床も。
どうか、うちで長生きしてくださいな。可愛い枇杷ちゃん。